電車のつり革の形はなぜ三角?丸型との違いや歴史・地域差を徹底解説

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毎日の通勤や通学、お出かけなどで電車を利用する際、私たちが何気なく握っている「つり革」。ふと頭上を見上げたとき、

「あれ?この路線のつり革は三角形だな」
「こっちの電車は丸型だ」

と、その形の違いに気づいたことはありませんか?

実は近年、首都圏を中心とした多くの鉄道路線で「三角形」のつり革が増加しています。一方で、関西圏などでは昔ながらの「丸型」のつり革が今も根強い人気を誇っており、地域や鉄道会社によってつり革の形には明確な違いが存在します。

「なぜ最近は三角形のつり革が増えているの?」
「丸型と三角型では、持ちやすさや安全性にどんな違いがあるの?」
「そもそもプラスチックでできているのに、なぜ『つり革』と呼ぶの?」

本記事では、そんな「電車のつり革の形」に関するあらゆる疑問を徹底的に解説します。人間工学に基づいた形状の秘密から、丸型と三角型のメリット・デメリットの比較、さらにはつり革の歴史、世界のつり革事情に至るまでわかりやすく紹介します。

この記事を最後まで読めば、明日からの電車移動が少し楽しくなり、思わず誰かに話したくなるような「つり革の雑学」が身につくはずです。奥深い「つり革の世界」へと出発しましょう!

目次

電車のつり革に「三角形」が増えている3つの理由とは?

東京圏のJRや地下鉄、私鉄各線に乗ると、持ち手の部分が「三角形」をしたつり革を非常に多く見かけます。かつては全国的に丸型が主流でしたが、なぜ三角形のつり革が増えたのでしょうか。

その理由には、鉄道会社と車両メーカーが徹底的に追求した「人間工学(エルゴノミクス)」と「安全性」、そして「疲労軽減」という明確な答えがあります。

三角形のつり革が増えている理由
  • 自然な手首の角度を保てる「枕木方向」への配置
  • 「面」で力を受け止めるから握りやすい
  • 回転しないため体重を預けやすい

三角形のつり革は「いかに乗客を安全に、疲れさせずに運ぶか」という鉄道会社の思いの結晶と言えるのです。

理由1.自然な手首の角度を保てる「枕木方向」への配置

三角形のつり革の最大の特徴は、その形状だけでなく「設置されている向き」にあります。

丸型のつり革の多くは、列車の進行方向と平行(線路方向)に輪が向いていることが多いのに対し、三角形のつり革は進行方向に対して直角、つまり「枕木(まくらぎ)方向」に向けて設置されているはずです。

人が立った状態で自然に腕を上に伸ばしたとき、手のひらは体の内側を向きます。窓側を向いていれば、この自然な手首の角度のままスッと握れるのが、枕木方向に設置された三角形のつり革なのです。

長時間の通勤ラッシュで立ち続けていても、手首に不自然なねじれが生じないため、腕や肩への負担が大幅に軽減されます。

理由2.「面」で力を受け止めるから握りやすい

丸型のつり革は、握ったときに人差し指と小指が内側にすぼまるような形になります。一方、三角形のつり革の下部(底辺の部分)は直線に近い緩やかなカーブを描いているため、人差し指から小指までの4本の指を均等に引っ掛けることができます。

指がしっかりと握れると4本の指が「面」となって体重を支えることが可能になり、少ない握力でもしっかりと身体を支えられます。特に電車の揺れに対して踏ん張らなければならない満員電車において、少ない握力で身体を支えられることは大きなメリットです。

理由3.回転しないため体重を預けやすい

丸型のつり革は、輪っかの部分がベルトのループ内でくるくると回転する構造になっています。しかし、三角形のつり革は、頂点の部分でベルトとしっかり固定されているため、持ち手が回転しません

持ち手が回転しないということは電車がカーブを曲がったり、急ブレーキをかけたりしたときに手が滑って手首を痛める危険性が少なくなるということです。乗客はつり革にしっかりと体重を預けることができ、前後左右の揺れに対しても高い安定性を保つことができます。

「三角形」にも種類がある!正三角形と二等辺三角形の違い

電車のつり革というと「丸型」と「三角型」に分けて考えがちですが、実は三角型の中にもいくつかの種類があります。代表的なのが、丸みのある正三角形(おにぎり型)タイプと、縦に細長い二等辺三角形タイプです。どちらも下辺を握りやすいように作られていて、丸型よりも手に力を入れやすいのが特徴です。

ただし、見た目の印象や手の入れやすさ、車内での見え方には少し違いがあります。普段は同じ「三角形のつり革」に見えても、よく観察すると車両や路線によって形に個性があるのです。

愛嬌のある「おにぎり型(正三角形に近い形)」

現在、東京メトロ(旧・営団地下鉄)や多くの私鉄で採用されているのが、全体的に丸みを帯びた正三角形に近い形状、通称「おにぎり型」です。

1980年代以降の新造車から積極的に導入され始めたこのおにぎり型は、角がないため、万が一混雑した車内で乗客の頭や顔にぶつかっても痛みが少ないという安全上のメリットがあります。

また、下部の握る部分だけでなく、斜めの辺の部分も比較的握りやすいため、身長の低い方や子供が少し下の方を握る際にも対応しやすいという特徴があります。

シャープで機能的な「二等辺三角形」

JR東日本の通勤電車(E233系など)や優先席付近でよく見かけるのが、縦に長い二等辺三角形をしたつり革です。上がすぼまり、下に向かって少し長く伸びたように見えるため、全体的にすっきりとした印象があります。

二等辺三角形のよいところは、手を差し込みやすく、握る位置がわかりやすいことです。縦長の空間があるため、手を輪の中に入れやすく、下辺をしっかり握る動作につながりやすくなります。電車が揺れたときにも、手のひら全体で支えやすく、力を入れやすい形です。

二等辺三角形型は見た目がシャープなので、最新の通勤電車のスタイリッシュな内装にもよくマッチしています。丸型のようなレトロ感よりも、機能性や清潔感を感じさせやすく、現代的な車両で見かけると自然になじみます。

さらなる進化系「五角形(ホームベース型)」や「たまご型」

三角型のつり革は、さらに細かく見ると五角形や、たまご型のように丸みを帯びたものもあります。

五角形型は、野球のホームベースのような形に見えることから「ホームベース型」と呼ばれています。例えば、JR東日本の211系などでは、白い五角形の持ち手が使われていることがあります。

五角形型は、三角型の握りやすさを残しつつ、角の印象を少しやわらげた形です。下側に直線的な握り部分を作りながら、全体の角を増やすことで、手に当たる感覚や見た目のバランスを調整していると考えられます。

たまご型は丸型と三角型の中間のような印象があります。丸型ほど完全な円ではなく、三角型ほど角ばってもいないため、やわらかく親しみやすい見た目です。握りやすさだけでなく、車内の雰囲気やデザイン性も意識された形といえます。たまご型つり革は西武鉄道のオリジナルです。

昔からある「丸型」のつり革が今も根強く残る3つの理由と地域差

三角形のつり革が機能性で増えている一方で、「やはりつり革は丸型に限る!」という声も根強く存在します。

実際、関西圏の多くの鉄道会社(阪急電鉄、阪神電鉄、京阪電鉄など)では、今でも丸型のつり革が主流として採用されています。丸型には、三角形にはない独自のメリットがたくさんあるのです。

丸型のつり革が残る理由
  • 360度どこからでも「とっさに」掴みやすい
  • クルッと回して「人が触っていない場所」を持てる
  • 頭にぶつかっても痛くない「究極の安全性」

理由1.360度どこからでも「とっさに」掴みやすい

丸型の最大のメリットは、どの角度から手を伸ばしても同じように掴めるという点です。公益財団法人鉄道総合技術研究所のつり手の即座のつかみやすさ評価でも、「つり革を握っていない乗客が、電車の急な揺れでとっさに掴まりやすいのは丸型である」という結果が出ています。

三角形のつり革は、決まった方向から手を入れることを前提として設計されていますが、丸型であれば、斜めからでも横からでも、指を引っ掛けやすいのです。

普段はつり革を持たずに立っている乗客が、揺れたときだけ掴まるのに非常にありがたい特性です。

理由2.クルッと回して「人が触っていない場所」を持てる

潔癖症の人や、他人の手のぬくもりが残っているのを嫌う人にとって、丸型つり革は救世主です。丸型は輪っかが回転するため、クルッと回せば直前まで前の人が握っていた部分を避けて、まだ誰も触っていない(あるいは冷たい)部分を握ることができるからです。

特に、新型コロナウイルスの流行以降、衛生面を気にする乗客が増えたため、この「回して使える」という丸型のメリットは再び注目を集めることになりました。

理由3.頭にぶつかっても痛くない「究極の安全性」

三角形のつり革は、いくら角に丸みを持たせているとはいえ、揺れた拍子に顔や頭にぶつかると「痛い」と感じることがあります。

丸型は完全に角がないため、混雑時に乗客の頭や肩にゴツゴツと当たるダメージが最小限に抑えられます

つり革の形に見る「東西の文化と混雑率の違い」

関東圏で三角形が増え、関西圏で丸型が残っている理由の一つとして、「電車の混雑率の違い」が挙げられます。

東京圏の朝のラッシュ時は、乗車率が150%〜180%を超えることも珍しくありません。このような極限の混雑状況では、乗客は一度つり革を握ったらその姿勢のまま微動だにできず、ひたすら耐えることになります。そのため、「長時間同じ姿勢で握り続けても疲れにくい」三角形のつり革が好まれます。

一方、関西圏をはじめとする地方都市では、東京ほどの混雑は少なく、「必要な時だけとっさに掴めればよい」という乗り方が比較的多く見られます。そのため、とっさの掴みやすさや、車内の景観を柔らかく見せる丸型のつり革が引き続き愛用されているという背景があるのです。

つり革の歴史1.なぜプラスチック製なのに「革」と呼ぶのか?

そもそも、現代の電車のつり革は持ち手がプラスチック(樹脂)で、ベルト部分もナイロンや塩化ビニルでできています。どこにも「革」が使われていないのに、なぜ私たちはこれを「つり革」と呼ぶのでしょうか。

その答えは、150年以上前のイギリスの歴史にまで遡ります。

起源は1870年代イギリスの「鉄道馬車」

つり革の起源は、1870年頃のイギリス・ロンドンで運行されていた「鉄道馬車(レールの上を走る馬車)」だと言われています。

当時の乗り物は基本的に「座って乗る」ものでしたが、都市部に人口が集中し、短距離を移動する立ち乗り客が増えたことで、体を支えるための設備が必要になりました。この時、馬車の天井からぶら下げられたのが、「本物の牛革で作られたベルト(紐)」でした。

これが文字通りの「吊るされた革=つり革」の始まりです。

日本への導入と進化

日本でも明治時代に入り鉄道が開業すると、立ち乗り客への対応としてつり革が導入されました。1907年(明治40年)に製造された日本の鉄道車両の写真には、すでに車内に牛革のベルトを輪にしたものが天井からぶら下がっている様子が確認できます。

大正時代(1914年頃)に入ると、握りやすいように先端に木や竹、籐(ラタン)などで作られた「手掛け(持ち手)」が取り付けられるようになりました。1924年頃にはさらに進化し、現在と同じ合成樹脂(セルロイド)製の丸型の手掛けが登場しました。

現在も博物館明治村に動態保存されている京都市電などでは、籐でできたレトロなつり革を見ることができます。

戦中・戦後の物資不足からプラスチックの時代へ

第二次世界大戦中から戦後にかけては、深刻な物資不足により、ベルト部分に本物の牛革を使うことが難しくなりました。そのため、竹やロープ、人絹、布入りゴムなど、あらゆる素材が代用品として使われました。戦後には、戦闘機などの製造で余剰となったジュラルミン製のつり革まで登場したそうです。

そして1950年代以降、日本の高度経済成長とともに化学工業が発展すると、つり革の素材は一気に近代化します。丈夫で加工しやすく、大量生産が可能な「丸型のプラスチック(樹脂)」の手掛け(持ち手)と、「塩化ビニル被覆のキャンバス地」などのベルトが組み合わされるようになり、現在の形が完成しました。

1957年頃には、電車の加減速性能が向上し、身体が大きく振られるように。それを抑えるため、つり革の取り付け棒の高さを下げ、ベルトを短くしています。

素材が完全にプラスチックや化学繊維に置き換わった現在でも、かつて「牛革がぶら下がっていた」という歴史から、親しみを込めて「つり革」と呼び続けているのです。

「つり革」とはベルト部分を言い、持ち手部分は「つり手(吊手)」と言います。

つり革の歴史2.「リコ式つり革」を知っていますか?

つり革の歴史を語る上で欠かせないのが、昭和の時代に地下鉄で広く採用されていた「リコ式つり革」の存在です。ある一定の年代以上の鉄道ファンなら、懐かしさを感じる言葉かもしれません。

バネの力で跳ね上がる不思議なつり革

「リコ式つり革」とは、アメリカのリコ(RICO)社が開発した機構を用いたつり革のことです。最大の特徴は、ポールの付け根に強力なスプリング(バネ)が内蔵されている点です。

乗客が握って体重をかけると手元に引き寄せられますが、手を離すとバネの力で「バンッ!」と自動的に窓側(または天井側)に跳ね上がり、固定される仕組みになっていました。

リコ式が採用された理由と消えた理由

なぜこのような複雑な仕組みが必要だったのでしょうか。

初期の地下鉄(例えば1927年に開業した東京地下鉄道・現在の銀座線など)は、車内の天井が低く、通路も狭かったため、通常のぶら下がるつり革では乗客の頭にガンガンぶつかって邪魔になっていました。そこで、使わない時は跳ね上がって邪魔にならない「リコ式」が重宝されたのです。

しかし、このリコ式つり革には大きな弱点がありました。乗客が手を滑らせてパッと離してしまった瞬間、強力なバネの力で勢いよく跳ね上がり、それが近くにいる他の乗客の顔や頭に直撃してケガをさせるという事故が多発したのです。また、バネのメンテナンスにも手間がかかりました

その後、車両が大型化して天井が高くなり、乗客の頭にぶつかりにくい設計が可能になったこと、そして安全性の問題から、1967年以降は丸型つり革が採用されるようになりました。

現在では、一部の保存車両や鉄道博物館でしか見ることができない「幻のつり革」となっています。

銀座線や丸の内線の一部車両には、地下鉄開通当初の「リコ式」をモチーフとした「涙型」の吊り手が採用されています。

つり革の歴史3.人間工学から誕生した三角型つり革(おにぎり型)

1960年代中半になると、地下鉄をはじめとする首都圏の鉄道各社は、急増する乗客の需要に応えるため、より快適な車内環境の提供を模索し始めました。

そのなかで「より握りやすい形」を徹底的に追求して誕生したのが、現在ではおなじみとなった三角形のつり革(おにぎり型)です。

営団地下鉄とメーカーが共同開発した「TA型」の誕生

現在の三角型つり革のルーツと言えるのが、レールに対して垂直方向(枕木方向)に設置された三角形の「TA型」(通称:おにぎり型)と呼ばれるつり革です。

この「TA型」という名前は、東京メトロの前身である「帝都高速度交通営団」の頭文字「T」と、つり革の製造メーカーである「アサヤマ」の頭文字「A」を取って名付けられました。

1969年に東西線用の5000系に導入されたのが始まりで、営団独自のつり手として登場しました。丸型つり革が導入された1967年からわずか2年後のことでした。

「より握りやすく」を追求した人間工学的なこだわり

このTA型は、「リコ式」と当時の主流であった丸型つり革のそれぞれの良いとこ取りをした構造とも言われています。

その最大の特徴は、徹底した「人間工学的観点」からのアプローチです。手首に負担がかからない角度で自然に握れるだけでなく、なんと「座席に座っている乗客への照明の当たり方(影の落ち方)」まで計算して設計されていました。

乗客の目に見えない細やかな部分にまで、開発者たちのこだわりが宿っていたのです。

鉄道各社へ波及し、半世紀続くスタンダードへ

1969年に登場したTA型のつり革は、その後、東京メトロの歴代車両の標準仕様として受け継がれていきました。

そして、その人間工学に基づいた使いやすさは他の鉄道会社にも瞬く間に波及し、現代の通勤電車における「スタンダード」へと成長しました。

広告掲載用の筒付きの三角型つり革(アイロン型)

旧国鉄(現JR)では、1972年に広告掲載用の筒付きの三角型つり革(アイロン型)が採用されましたが、ユリア樹脂製だったため破損が多く、すぐに丸型つり革に戻しています。1986年頃に改良された三角型つり革が標準で採用されるようになりました。

半世紀近くにわたって愛され続けている三角形のつり革。そこには、暗い地下空間での照度確保や、激しい混雑状況など、時代ごとのさまざまな課題を安全性と強度の両面で乗り越えてきた、たゆまぬ研究と進化の歴史がギュッと詰まっているのです。

キャラクターからハートまで!ユニークなつり革のバリエーション

つり革の形は、実用的な「三角」や「丸」だけにとどまりません。近年では、乗客に楽しんでもらったり、路線の個性をアピールしたりするために、さまざまな「ユニークな形のつり革」が登場し、SNSなどでも度々話題になっています。

幸運を呼ぶ?「ハート型のつり革」

多くの路線で、数千本〜数万本に1本という極めて低い確率でこっそり設置されているのが「ハート型」のつり革です。

例えば、伊豆箱根鉄道、京王電鉄、相模鉄道、富士急行など、全国のさまざまな鉄道会社で「見つけると幸せになれる」「恋愛が成就する」といったジンクスとともに企画されています。

ピンク色や赤色で彩られたハート型のつり革は、殺伐とした通勤電車の中にホッと一息つける癒やしを提供してくれます。

人気キャラクターがそのままつり革に!

観光路線や特定のテーマを持った列車では、キャラクターを模したつり革が子供たちに大人気です。

キャラクタ型つり革
  • ミッキーマウス型
    東京ディズニーリゾートを走る「ディズニーリゾートライン」の車内には、ミッキーの顔のシルエット(大きな丸に2つの小さな丸い耳)をした可愛いつり革が並んでいます。
  • そうにゃん型
    相模鉄道(相鉄)のキャラクター「そうにゃん」の輪郭をしたつり革。そうにゃんトレインに設置されていて、電車のラッピングは毎年デザインが変わります。
  • くろにょん型
    関電トンネル電気バス(黒部ダム)で使われている、マスコットキャラクター「くろにょん」の顔の形をしたつり革です。

地域色豊かなご当地つり革

ご当地型つり革
  • 招き猫型
    東急世田谷線では、沿線にある豪徳寺(招き猫の発祥の地と言われる)にちなんで、招き猫の形をしたつり革が設置された「幸福の招き猫電車」が運行されています。
  • さかな型・イカリ型
    港町を走る路線や、海をテーマにした観光列車などで見られる形状です。

このように、つり革は単なる「身体を支える道具」から、車内を彩る「エンターテインメント要素」としての役割も担うようになっているのです。

なぜ高さや色が違う?つり革のバリアフリー進化

電車の車内を見渡すと、形だけでなく「長さ(高さ)」や「色」が異なるつり革が混在していることに気づくでしょう。これも適当に設置されているわけではなく、明確な意図を持ったバリアフリーの取り組みです。

「段差」があるつり革の秘密:万人のための高さ設計

昔の電車のつり革は、すべて同じ高さで一直線に揃えられているのが普通でした。しかし現在では、一つの取り付け棒に「長い(低い)つり革」と「短い(高い)つり革」が交互に吊るされている車両が見られます。

これは、身長の低い方、子供、高齢者など、さまざまな体格の人が無理なく握れるようにするための工夫です。鉄道総合技術研究所の提案によれば、多くの人が使いやすい床から手掛けまでの長さは「1600〜1630mm程度」とされていますが、そこから数センチ〜10センチほど下げた「低めのつり革」を配置することで、小柄な人でも腕が疲れにくくなります。

また、背の高い人にとっては、低い位置のつり革が顔にぶつかって邪魔になることがあるため、高い位置のつり革を選ぶことができます。乗客一人ひとりの体格に合わせた選択肢が用意されているのです。

「色」が持つメッセージ:優先席エリアのオレンジ色

通常、つり革の色は白や薄いグレーなどの目立たない色が使われますが、車内の特定の一角だけ「オレンジ色」や「黄色」など、非常に派手な色のつり革が設置されていることがあります。

これは「優先席(シルバーシート)」のエリアを示すためのサインです。JR東日本のE233系などでは、優先席付近のつり革を黄色やオレンジ色にし、さらに形状も大きな二等辺三角形などにすることで、健常者に対して「ここは配慮が必要なエリア」ということを視覚的に強く訴えかけています。

また、視力の弱いお年寄りがつり革の位置を瞬時に把握しやすくするという、カラーユニバーサルデザインの観点も含まれています。

世界の電車のつり革事情!海外では「手すり」が主流?

ここまで日本のつり革の進化について詳しく見てきましたが、一歩日本を飛び出して海外の鉄道に乗ってみると、驚くべき事実に直面します。

実は、「つり革」がこれほどまでに発達し、車内中に張り巡らされている国は、世界的に見ても日本くらいしかありません。

欧米では「スタンションポール(手すり)」が主流

アメリカ・ニューヨークの地下鉄や、イギリス・ロンドンの地下鉄、フランス・パリのメトロなど、欧米の主要都市の鉄道に乗ると、つり革を見かけることはほとんどありません。

代わりに車内に林立しているのが、床から天井に向かって伸びる金属製の「スタンションポール(手すり)」です。ニューヨークでは1960年代後半から、ロンドンでは1980年代後半から、つり革に変わって設置され始めました。

では、なぜ欧米にはつり革が少ないのでしょうか。その理由は、身体の支え方に対する文化や考え方の違いと言われています。

日本のつり革は、紐やベルトでぶら下がっているため、電車の揺れに合わせて身体もある程度「遊び」を持って揺れることになります。これは、柳の枝のように揺れを受け流す日本的な発想だとも言えます。

一方、欧米で好まれる手すりは、全く動きません。揺れる車内において、動かない強固なポールを力強く握りしめ、自らの力でガッチリと身体を固定するというスタイルが好まれているのです。欧米のガイドラインでは、手すりの直径(握りやすさ)については細かく規格化されていますが、つり革に関する規定はほとんど存在しないそうです。

アジア圏で見られる独自のつり革事情

アジア圏では、日本と同様につり革文化が根付いている国もありますが、独自の発達を遂げているケースもあります。

例えば、タイのバンコクを走るスカイトレイン(BTS)や地下鉄(MRT)では、プラスチックの持ち手部分が存在せず、下の部分を輪っかにしただけのベルトが金属ポールにぶら下がっている非常にシンプルなつり革が使われています。

これはある意味、1870年代のつり革の起源に近い、原点回帰とも言える姿です。

疲れないつり革の持ち方と満員電車の立ち方

電車のつり革の形状(特に三角形)が人間工学に基づいて設計されていることは解説しましたが、乗客である私たち自身も「正しい持ち方」と「立ち方」を知ることで、通勤ラッシュの疲労を減らすことができます。

疲れない持ち方と立ち方
  • 手首をひねらず「素直に」手を伸ばす
  • 「指の第一関節と第二関節」で引っ掛ける
  • 足は肩幅に開き「斜め45度」のスタンスで立つ
  • 膝の「クッション」を使う

手首をひねらず「素直に」手を伸ばす

三角形のつり革(枕木方向)を握る際は、決して手首を無理にひねってはいけません。肩から真っ直ぐ腕を上げ、手のひらが自然に向く方向でスッと握ります

この時、つり革にぶら下がるように全体重をかけるのではなく、あくまで「バランスを崩した時の補助」として軽く握るのが正解です。

「指の第一関節と第二関節」で引っ掛ける

手のひら全体で強く握りしめると、前腕の筋肉(腕橈骨筋など)が緊張し、すぐに腕がパンパンに疲れてしまいます。

鉄棒にぶら下がる時のように、指の第一関節から第二関節の間に持ち手の平らな部分(底辺)を引っ掛け、手のひらは軽く添えるだけにするのが、最も疲労が少ない「エルゴノミクス・グリップ」です。

足は肩幅に開き「斜め45度」のスタンスで立つ

いくらつり革を正しく持っても、足の立ち方が不安定では意味がありません。電車は主に「前後(加速・減速)」と「左右(カーブ)」に揺れます。

足を揃えて立つと、前後の揺れに非常に弱くなります。そこでおすすめなのが、サーフィンやスノーボードのスタンスのように、足を肩幅に開き、進行方向に対して体を「斜め45度」に向けて立つ方法です。

このスタンスをとることで、前後・左右どちらの揺れに対しても踏ん張りが利き、つり革にかける力を最小限に抑えることができます。

膝の「クッション」を使う

立っている時、膝の関節をピンと真っ直ぐに伸ばし切ってしまうと、電車の床からの振動が直接腰や頭に伝わり、乗り物酔いや疲労の原因になります。

膝はほんの数ミリだけ曲げる意識で、車のサスペンションのように柔らかく保つと、揺れを吸収して快適に立つことができます。

マナーと感染症対策

つり革は公共のものです。一つの大きなつり革(東急電鉄の大型三角つり革など)は、混雑時に複数人で譲り合って掴めるように設計されている場合があります。お互いにスペースを譲り合う思いやりが大切です。

また、衛生面が気になる場合は、抗ウイルス加工や抗菌仕様が施された最新のつり革を選ぶ(多くの鉄道会社で導入が進んでいます)か、手袋の着用、降車後の手洗い・アルコール消毒を徹底することで、安心して利用することができます。

電車のつり革に関するQ&Aコーナー

電車のつり革に関してよくある素朴な疑問をQ&A形式でまとめました。

つり革が切れてしまわないか心配です。耐荷重はどれくらいですか?

日本のつり革は極めて厳しい安全基準で作られています。JRIS(日本鉄道車両工業会規格)では、122.45kgf以上という基準があり、わかりやすく言うと120kg〜122kg以上の引っ張り荷重でも耐えられる設計になっています。なので、成人男性が全体重をかけてぶら下がっても、簡単には引きちぎれません。

テレビ番組で検証したときは、380kgまで切れませんでした

ただし、意図的に強い力で引っ張ったり、複数人でぶら下がったりするような危険行為は絶対にやめましょう。

ドア付近のつり革だけ、外側に向かって曲がっていることがあるのはなぜ?

「引き込まれ事故」を防ぐための重要な工夫です。

ドアのすぐそばにあるつり革を乗客が握っていると、ドアが開いた際に腕や身体が戸袋(ドアが収納されるスペース)に引き込まれてしまう危険性があります。そのため、ドア周辺のつり革はあらかじめドアから遠ざかる方向へ角度をつけて固定されていたり、配置位置がドアから少し離されていたりします。

つり革は一つ作るのにいくらくらい費用がかかるの?

一般的な丸型や三角形のプラスチック製つり革の製造コストは、部品代だけであれば数百円〜千数百円程度だと言われています。

しかし、車両全体に取り付けるための専用の金属パイプの施工費、抗菌・抗ウイルス加工、難燃性の特殊素材(ポリカーボネート等)の使用などを考慮すると、鉄道会社にとっては決して安価な設備ではありません。

古くなったつり革はどうなるの?

車両の点検やリニューアルの際に、一定の年数が経過したつり革は安全のために新しいものと交換されます。

取り外された古いつり革は、鉄道会社のイベント(鉄道フェスティバルや車両基地の一般公開など)で、部品販売の目玉として数百円〜数千円で一般の鉄道ファン向けに販売されることがあります。購入したファンは、自家用車や自分の部屋に取り付けて楽しんでいます。

つり革の形には、乗客への「思いやり」が詰まっている

電車のつり革の形について、三角型と丸型の違いを中心に、歴史や海外事情まで見てきました。

改めて、本記事の重要なポイントをまとめます。

三角形のつり革が増えている理由
  • 枕木方向(線路と直角)に配置されており、手首をひねらず自然な角度で握れる。
  • 4本の指で「面」として力を入れやすく、長時間立っていても疲れにくい。
  • 持ち手が回転しないため、急な揺れでも体重を預けて安定しやすい。
  • 特に満員電車となる首都圏の路線で絶大な効果を発揮する。
丸型のつり革が根強く残る理由
  • 360度どこからでも、とっさに手が届きやすい。
  • クルッと回して他人が触っていない部分を握れるという心理的・衛生的な安心感。
  • 万が一頭にぶつかっても角がないため安全。
  • 混雑率が東京ほど高くない関西圏などの路線で、現在もスタンダードとして愛用されている。

私たちが毎日何気なく握っているつり革。その小さな15センチほどのプラスチックの輪っかには、150年にわたる歴史と、人間工学の粋を集めた科学、そして「乗客を少しでも疲れさせず、安全に目的地へ運びたい」という鉄道会社や部品メーカーの熱い思いやりがギュッと詰まっています

明日から電車に乗る時は、ぜひ頭上のつり革を見上げてみてください。

「今日の電車はおにぎり型の三角つり革だな」
「この路線は関西だから、やっぱり丸型つり革が多いな」
「優先席の前だから、つり革がオレンジ色になっている」

そんな風に観察してみるだけで、毎日の退屈な通勤・通学の時間が、少しだけ知的好奇心を満たす楽しい時間へと変わるはずです。

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