「マーガリンは体に悪い」
「健康を考えるなら、バター」
そんな話を耳にしたことはありませんか。実は、このマーガーリンとバターのイメージは、少し前の情報をもとにしたものです。
確かに以前、マーガリンは「トランス脂肪酸の塊」として、世界中の健康志向の人々から敵視された時代がありました。しかし、あなたが「マーガリン=悪」という情報を信じている間に、食品科学の世界では大きな技術革新が起き、その常識は180度ひっくり返ってしまいました。
また、「天然だから安心」と思われているバターにも、見落とされている注意点があります。
つまり、どちらか一方が健康に良く、もう一方が健康に悪いという話ではないのです。
本記事では、なぜマーガリンが「悪者」にされたのかという背景からバターとの違い、そして現在の日本でシーン別にどちらを選んだほうが良いかまでを、健康情報に振り回されがちな大人向けに整理して解説します。
本記事を読み終えたとき、「なんとなくのイメージ」で食べていた「マーガリン」と「バター」が、自分なりに納得して選べるようになっているはずです。
なぜ「マーガリンは体に悪い」と言われてきたのか

「マーガリンは体に悪い」というイメージは、突然生まれたものではありません。その背景には、かつての製造技術や栄養学の考え方、そして一部の情報が強く印象に残ったことが原因です。
マーガリンはバターの代用品として生まれ、保存性や価格の面で多くの家庭を支えてきました。ところが時代が進むにつれ、ある成分が注目されるようになり、次第に“健康に悪い食品”というレッテルが貼られていったのです。
悪者にされた原因は「トランス脂肪酸」
マーガリンが問題視される最大の原因となったのが「トランス脂肪酸」の存在です。
トランス脂肪酸とは、植物油を固形化する過程で生じる脂肪酸の一種で、過去の研究では「摂りすぎると心臓病のリスクが高まる可能性がある」とされ、2002年開催のWHO/FAO合同専門家会合でも指摘されていました。
この情報が広まるにつれ、「マーガリン=トランス脂肪酸が多い=体に悪い」というイメージが一気に定着します。
ただし、当時のマーガリンと現在の製造技術が進んだマーガリンではトランス脂肪酸の含有量は全然違います。にもかかわらず、現在でも「マーガリン=トランス脂肪酸が多い」という印象だけが強く残り続けています。
そもそもトランス脂肪酸とは何か?

脂肪酸は、炭素の二重結合の有無などで分類されますが、その中で二重結合の炭素についている水素の向きが互い違い(トランス型)になっているものを「トランス脂肪酸」と呼びます。
トランス脂肪酸には、大きく分けて2つの由来があります。
- 天然由来
牛や羊などの反芻(はんすう)動物の胃の中で、微生物の働きによって作られるもの。牛乳、バター、牛肉などに微量に含まれます。 - 工業由来
植物油などの液体油に水素を添加して固形化する際や、油脂を高温で精製する過程で生成されるもの。かつてのマーガリンやショートニングが該当します。
WHO(世界保健機関)は、2002年「食事、栄養及び慢性疾患予防に関するWHO/FAO合同専門家会合」でトランス脂肪酸の摂取量を「総エネルギー摂取量の1%未満」に抑えるよう勧告しています。
その理由は、トランス脂肪酸の過剰摂取が、LDL(悪玉)コレステロールを増やし、HDL(善玉)コレステロールを減らし、動脈硬化や冠動脈性心疾患のリスクを高めると確実視されているからです。
海外の規制が不安をあおった
マーガリンへの不安が決定的になったのは、海外の動きが大きく報道されたことも影響しています。
アメリカでは2018年6月以降、食品への「部分水素添加油脂(トランス脂肪酸の主な発生源)」の使用が原則禁止されました。また、ヨーロッパでもトランス脂肪酸の摂取を問題視し、使用制限や事実上の禁止措置が取られた国もありました。
こうしたニュースが日本でも繰り返し紹介されることで、「マーガーリンは海外で禁止されている=日本でも危険なのでは?」という印象が広がっていきます。
しかし実際には、海外と日本では食生活や製品基準が大きく異なります。それにもかかわらず、「海外で規制された」という事実だけが切り取られ、不安が必要以上に膨らんでしまったのです。
そうしてマーガリンは、いつの間にか“避けるべき食品”として記憶されてしまいました。
日本のマーガリンの「現在」は世界最高水準
2000年代前半頃までは、確かにマーガリンはトランス脂肪酸を多く含んでいました。液体である植物油を固めるために「水素添加」という技術を使っていたからです。
しかし、世界的なトランス脂肪酸低減の動きを受け、日本の油脂メーカーは製法の大改革を行いました。それが「エステル交換」などの新技術への移行です。
詳しい化学反応の説明は省きますが、簡単に言えば「水素を無理やり添加して固める」のではなく、「脂肪酸の組み合わせを入れ替えて、常温でも固まりやすくする」技術や、そもそもトランス脂肪酸が発生しにくい製造工程を確立したのです。
その結果、現在日本のスーパーで売られている家庭用マーガリンの多くは、トランス脂肪酸の含有量が劇的に減っています。
バターとマーガリンは何がどう違うのか

「バターは自然な食品、マーガリンは人工的な食品」という印象を持っている人もいると思います。確かに原料や作り方に違いがありますが、それがそのまま健康面の評価が分かれるほど単純な話ではありません。
まずは、バターとマーガリンがどのように作られているのかを確認しておきましょう。
原料と製造方法の違い
バターの主な原料は牛乳や生クリームなどの乳脂肪です。乳脂肪を撹拌することで水分と脂肪が分離し、固まったものがバターになります。素材がシンプルなため、「昔ながら」「自然」といったイメージの食品です。
一方、マーガリンの原料は植物油が中心です。コーン油や大豆油などの液体油脂を加工し、バターのように固形にして作られます。この「加工」という言葉が、「マーガリンは健康によくないのでは?」という不安を生み出す原因でもあります。
つまり両者の違いは、“脂肪の種類の違い”にあると言えます。
- バター:動物性脂肪が主体
- マーガリン:植物性脂肪が主体
「バター=天然=安全」という思い込み
バターが安心そうに見える最大の理由は、「天然のものだから体にいいはず」という感覚かもしれません。
しかし、天然であることと健康に良いということは、必ずしも一致しません。バターに多く含まれる「飽和脂肪酸」という脂質は、摂りすぎると血液中のLDL(悪玉)コレステロールが増加し、動脈硬化や心筋梗塞などになると指摘されている成分でもあります。
一方でマーガリンは植物油由来の脂質が中心で、製品によっては健康に良い「不飽和脂肪酸」を多く含むものもあります。
つまり、
- 天然だから「安心」
- 加工されているから「危険」
という考え方では、本当の姿は見えてきません。
健康を考える上で大切なのは、どちらの脂を、どれくらい、どんな頻度で摂っているか、という点なのです。この考え方が分かると、バターとマーガリンの議論は「どちらが悪者か」ではなく、「どう使い分けるか」という話に変わっていきます。
数字で見る衝撃の事実:バターvs最新マーガリン
論より証拠、まずは、具体的な数字を見てみましょう。
| トランス脂肪酸(100gあたり) | |
|---|---|
| バター | 1.9g |
| マーガリン(2007年) | 8.7g |
| マーガリン(2014年) | 0.99g |
参照元:ミヨシ油脂
お気づきでしょうか。なんと、今の日本の技術で作られたマーガリンは、天然のバターよりもトランス脂肪酸が少ないのです。「トランス脂肪酸が怖いからバターにする」という行動は、現在の製品状況と照らし合わせると矛盾が生じていることになります。
もちろん、天然由来のトランス脂肪酸と工業由来のトランス脂肪酸では健康への影響が同じかどうかについては議論が続いています。しかし、少なくとも「量」だけ見れば、マーガリンは「トランス脂肪酸の塊」とは言えません。
「海外では禁止されている!」と叫ぶ人は、日本でマーガリンを製造するときに「部分水素添加油脂」をもうほとんど使っていないという事実を知らないのです。
「昔のマーガリン」と「今のマーガリン」は別物

マーガリンに対する不安の多くは、過去のイメージがそのまま残っていることが原因です。現在私たちが手にしているマーガリンは、かつて問題視されたものとは中身が大きく変わっています。
その違いを生んだのが、製造技術の進化です。
製造技術の進化で何が変わったのか
以前のマーガリンは、植物油を固形化するために「部分水素添加」という方法で製造されていました。この工程で、トランス脂肪酸が多く発生していたのです。
ところが現在では、製造方法が大きく見直されました。下記のような取り組みが進み、トランス脂肪酸の含有量は大幅に低減されています。
- トランス脂肪酸が発生しにくい製法への切り替え
- 脂肪酸組成を調整する技術の向上
- 原料油そのものの改良
かつて問題となった“製造方法”そのものが、すでに変わっているというわけです。「マーガリン=トランス脂肪酸が多い」という図式は、今では必ずしも当てはまりません。
日本で売られている製品の現状
日本で販売されているマーガリンは、海外とは異なる厳しい基準のもとで作られています。メーカー各社はトランス脂肪酸の低減を自主的に進め、現在ではトランス脂肪酸が微量に抑えられた製品が主流です。
また、日本人の食生活は欧米と比べて脂質摂取量が少なく、マーガリンから摂るトランス脂肪酸の量も限定的だとされています。
そのため、普通の食事の範囲でマーガリンを使う限り、過度に心配する必要はないというのが現在の一般的な見解です。もちろん、「たくさん食べても問題にならない」という意味ではありませんが、少なくとも、かつて語られていたような極端な危険性とは状況が異なります。
普通の食生活で問題になるケースは?
日常の食事でトランス脂肪酸が問題になるのは、どのような場合でしょうか。
考えられるのは、下記のような場合です。
- 揚げ物や菓子類など脂質の多い食品を頻繁に大量摂取する
- 外食や加工食品中心の食生活が続いている
- 脂質全体の摂取量が日常的に多い
ただし、この場合に注意すべきなのは、トランス脂肪酸単体よりも食生活全体のバランスです。トランス脂肪酸だけを避けても、脂質やカロリーの過剰摂取が続けば、健康リスクは高まります。
逆に言えば、主食・主菜・副菜のバランスが取れた食事の中でトランス脂肪酸を適量に取り入れる程度であれば、過剰に恐れる必要はありません。
健康情報を知れば知るほど不安になりがちですが、重要なのは「トランス脂肪酸の摂取量をゼロにすること」ではなく、日常生活の中で無理なく「トランス脂肪酸の摂取量をコントロールできているか」ということなのです。
徹底比較!バターとマーガリンの「飽和脂肪酸」と「カロリー」

トランス脂肪酸の量に関しては「現代の日本のマーガリンはバターより少ないか同等」という事実を紹介しました。
「じゃあ、マーガリンの方が健康にいいの?」と思うかもしれませんが、物事には必ず裏と表があります。トランス脂肪酸以外の「飽和脂肪酸」と「カロリー」の観点から比較してみます。
見落とされがちな「飽和脂肪酸」のリスクと「高カロリー」
バターは、牛の乳脂肪を凝縮したもの・・・動物性脂肪の塊です。動物性脂肪には、「飽和脂肪酸」が多く含まれています。飽和脂肪酸は、人間が生きていく上で重要なエネルギー源ではありますが、現代人は往々にして「摂りすぎ」の傾向にあります。
飽和脂肪酸を過剰に摂取すると、血液中のLDL(悪玉)コレステロールが増加し、血管壁にプラーク(コブのようなもの)を作りやすくなります。症状で説明すると、動脈硬化になって心筋梗塞や脳卒中の危険性が高まります。このことは、多くの疫学研究でわかっています。
| 飽和脂肪酸(100gあたり) | |
|---|---|
| 無塩バター | 71.8g |
| 家庭用マーガリン(有塩) | 30.6g |
参考資料:日本食品標準成分表(八訂)増補2023年
マーガリンの主原料は、コーン油、大豆油、菜種油などの植物油です。植物油には、LDL(悪玉)コレステロールを下げる働きのある「不飽和脂肪酸(リノール酸やオレイン酸など)」が多く含まれています。
つまり、「血管への負担(コレステロール上昇リスク)」という点だけで見れば、実はバターの方がリスクが高い側面があるのです。「天然だから無害、人工だから有害」という単純なイメージでは、この医学的なリスクを見落としてしまいます。
また、バターは脂質が非常に高く、少量でもカロリーは高めです。「自然な食品だから大丈夫」と思って無意識に量が増えると、結果的に脂質の過剰摂取につながることもあります。脂質が非常に高いのは、マーガリンでも同じです。
| 脂質(100gあたり) | カロリー(100gあたり) | |
|---|---|---|
| 無塩バター | 83.0g | 720kcal |
| 家庭用マーガリン(有塩) | 83.1g | 715kcal |
参考資料:日本食品標準成分表(八訂)増補2023年
「マーガリン」と「バター」は、どちらも“脂質を多く含む高カロリーな食品”です。健康の観点から言えば、どちらを食べるにしても量と頻度を意識することが重要です。
バターとマーガリンはどっちが健康的?シーン別の考え方

バターとマーガリンの違いを知ると、「結局、どちらを選べば健康に良いの?」と迷ってしまうかもしれません。まず断言できるのは、「健康のためにマーガリンを避けて、高いバターを買う必要はない」ということです。
現在、日本国内の主要メーカーが製造する家庭用マーガリン(ファットスプレッド含む)であれば、トランス脂肪酸のリスクはバターと同等かそれ以下になっています。「マーガリン=毒」という図式は、頭の中から消しても大丈夫です。
重要なのは「どっちが良いか」という選択ではなく、「ライフスタイルや目的に合っているのはどっちか」という視点です。
生活の場面ごとに考えると、答えはずっと現実的になります。
忙しい平日朝のトーストなら「高品質なマーガリン(ファットスプレッド)」

朝食のトーストに使う場合、意識したいのは「量」です。
バターは風味が強いため、少量でも満足感がありますが、無意識のうちに厚く塗ってしまうことも少なくありません。また、バターは冷蔵庫から出したばかりだとカチカチで、急いで塗ろうとするとパンに穴が開きます(これが地味にストレス!)。
一方、マーガリンは伸びが良く、薄く広げやすいという特徴があります。結果として使用量が抑えられるメリットもあります。毎日続く習慣であれば、「どちらを使うか」よりも使いすぎていないかを意識するほうが、健康面では意味を持ちます。
最近のマーガリンは「バター入り」で風味を強化した商品や、「コレステロール0」をパッケージで明言している商品も多いです。成分表示を見て、納得できるものを選びましょう。
料理やお菓子作りなら「バター」

料理やお菓子作りでは、目的によってバターとマーガリンを使い分けるのが自然です。
コクや香りを重視したい料理ではバターが向いていますし、あっさり仕上げたい場合や大量に使う場面ではマーガリンを選ぶこともあります。しかし、バター特有の豊かな乳風味(ミルク感)とコクは、やはりマーガリンでは再現できません。特に、熱々のトーストに染み込ませた時やオムレツを焼く時のバターの香りは格別です。
いずれにしても、家庭料理の中で使う量は限られているので、特定の脂肪だけが極端に健康に影響を及ぼすことはありません。
「嗜好品」として質を楽しむのも大切なことです。味や仕上がりを楽しみながら、日常的な摂取量を把握し管理しましょう。
健康を気にするなら「機能性マーガリン」

健康を意識している場合は、バターかマーガリンか以前に、脂質全体の量を見る必要があります。
バターもマーガリンも脂質が多く、カロリーは高めです。そのため、「健康にいいから」と安心して使える食品ではありません。
健康を気にする人の場合の基本は、
- 使用量を決めておく
- 毎日使わなくてもよい
- 他の食事で脂質を摂りすぎていないか確認する
といった、全体のバランス調整です。
風味で満足しやすいバターを少量使う、あるいは使用頻度を下げるなど、無理のない続け方を意識することが大切です。
マーガリンには、「体に脂肪がつきにくい」特定保健用食品(トクホ)や「食物繊維入り」機能性表示食品があります。明確な健康目的で作られているため、バターよりも推奨できます。
ヘルシーリセッタソフト(雪印メグミルク)、オフスタイル(明治)など
コレステロール値が気になるなら「マーガリン」

健康診断で「コレステロール値が高めですね」と言われた場合、選択肢は明確です。
| コレステロール | |
|---|---|
| バター | 多い(動物性のため) |
| マーガリン | 少ない(植物性のため) |
コレステロールは動物の細胞膜を作る成分なので、植物油で作るマーガリンには、ほとんど含まていません。「毎朝パンにたっぷり塗りたいけれど、コレステロールが……」という悩みを持つ方にとっては、実は植物性のマーガリンの方が理にかなった選択肢となります。
「マーガリンよりバターの方が健康に良い」というイメージとは、全く逆になります。健康のためにバターに変えたのに、コレステロール値が上げてしまっては本末転倒です。
マーガリンには、悪玉コレステロールを減らす働きが期待される「オレイン酸」が含まれるものもあります。高オレイン酸タイプの「べに花油」を主原料としたマーガリンは、健康志向の人に人気です。
ネオソフト べに花(雪印メグミルク)、オフスタイルべに花(明治)など
ダイエット中で低カロリーを選ぶなら「ファットスプレッド」

「マーガリンの方が油っぽい気がするから太りそう」
「いやいや、バターの方がカロリー高いでしょ?」
これもよくある議論ですが、文部科学省の日本食品標準成分表(八訂)増補2023年で比較すると、以下のようになります。
| カロリー(100gあたり) | |
|---|---|
| 無塩バター | 720kcal |
| 家庭用マーガリン(有塩) | 715kcal |
驚くべきことに、バターもマーガリンもカロリーはほぼ同じです。どちらも成分の80%以上が「脂質」であるため、脂質1g=9kcalという物理法則からは逃れられません。ダイエットの観点から「どっちが太らないか」を議論するのは、どんぐりの背比べです。どっちも塗りすぎれば太ります。
ただし、マーガリンにはバターにはない「武器」があります。それが「ファットスプレッド」の存在です。
スーパーの棚をよく見てみてください。「マーガリン」と書かれた箱の横に、「ファットスプレッド」と書かれた箱がありませんか。JAS(日本農林規格)では、油脂含有率が80%以上のものを「マーガリン」、80%未満(主に食用植物油脂)のものを「ファットスプレッド」と定義しています。
最近の主流である「カロリーハーフ」や「脂肪分〇〇%オフ」と謳われている商品は、ほぼすべてこの「ファットスプレッド」に分類されます。これらの商品は水分量を増やして油脂を減らしているため、カロリーをバターの半分程度(100gあたり300〜400kcal台)に抑えることができます。
「味やコクよりも、とにかく摂取カロリーを減らしたい」という明確な目的がある場合は、バターでも純粋なマーガリンでもなく、この「ファットスプレッド」を選ぶのが正解です。
結局、どちらを避けるべきなのか?
バターかマーガリンかという二択で「避けるべき食品」を決めるのは現実的ではありません。なぜなら、現在の日本の食環境において、どちらか一方だけが極端に危険という状況ではないからです。
むしろ注意したいのは、
- 脂質の摂りすぎ
- 加工食品中心の食生活
- 「体にいい」という思い込みによる過剰摂取
といった点です。
健康を左右するのは、特定の食品ではなく、日々の選択の積み重ねです。バターもマーガリンも、正しく知ったうえで適量を使うなら、過度に避ける必要のない食品と言えるでしょう。
マーガリンの生みの親は「ナポレオン3世」だった

なぜ、バターの偽物(代用品)であるマーガリンを作ろうとしたのでしょうか?
マーガリンの歴史をご紹介します。
バター不足がきっかけで「安価な代用品」を募集
1860年代のフランスは、ナポレオン・ボナパルトの甥である「ナポレオン3世」が治めていました。産業革命が進み、都市部の人口が爆発的に増加。さらにプロイセン(ドイツ)との戦争の気配が濃厚になる中、フランス国内では深刻な問題が発生していました。
「バターが足りない」のです。都市への人口集中と生活水準の向上でバターの需要が増え、バターは深刻な品不足になって価格も高騰していました。
そこで、ナポレオン3世は安価な代替バターを募集します。この募集を見て開発をはじめたのが、フランスの化学者、イポリット・メージュ=ムーリエ(Hippolyte Mège-Mouriès)でした。
メージュ=ムーリエは、牛の脂をペプシン(胃液に含まれる消化酵素)で処理し、さらに牛乳と混ぜ合わせて攪拌することで、バターに似た乳化状態を作り出すことに成功しました。今でこそマーガリンは植物油が主原料ですが、発明当初の原料はなんと「牛脂(ヘット)」だったのです。
1869年、彼はこの発明でナポレオン3世から懸賞金を獲得。これが「オレオマーガリン(Oleomargarine)」の誕生であり、現代のマーガリンのルーツです。
つまり、マーガリンは「悪意を持って作られた偽物」ではなく、「バター不足で困っている人々を救うためのイノベーション」として生まれた発明品だったのです。
名前の由来は「真珠(Margarite)」
「マーガリン(Margarine)」という名前は、ギリシャ語で「真珠」を意味する「Margarite(マルガリテ)」が語源と言われています。
発明者のメージュ=ムーリエが、生成された脂肪酸の結晶を顕微鏡で観察した際、それがまるで真珠のように美しく白く輝いていたことから名付けられたとされています。
その後、マーガリンは原料が牛脂から安価な植物油(綿実油や大豆油)へと切り替わり、アメリカに渡って保存性や生産性が向上していきました。
日本での呼び名は「人造バター」
日本にマーガリンが入ってきたのは明治時代中期です。当時は「人造バター」という名前で呼ばれ、日本在留の欧米人のために輸入されました。日本で製造が始まったのは、山口八十八氏によって明治41年(1908年)からです。
戦後、昭和20年代後半から学校給食でもコッペパンとともマーガリンが普及。昭和27年(1952年)に「人造バター」から「マーガリン」へと名称が変更されました。
令和のマーガリンは当時の「人造バター」とは似て非なる、高度な技術の結晶へと進化を遂げています。
バターとマーガリンを選ぶ前に知っておきたい健康の話

バターとマーガリンは「どちらが善で、どちらが悪」という単純な話ではありません。
マーガーリンは技術の進化により製品の質が向上しましたが、昔の問題視されていたイメージが残り続けています。昔のイメージから変わることができないのは、食にまつわる話題では決して珍しいことではありません。
健康にとって本当に大切なのは、特定の食品を避けることよりも、情報をどう受け取り、どう選ぶかという姿勢です。「天然だから安心」「加工されているから危険」という分かりやすい言葉ほど、実は判断を曇らせます。
私たちの体は、ひとつの食品だけでつくられているわけではありません。日々の食事の積み重ねの中で、少しずつ影響を受けています。だからこそ、必要なのは完璧な正解を探すことではなく、自分の生活に合った食品の選び方を知ることです。
バターの芳醇な香りを楽しむ日があってもいい。マーガリンの便利さに助けられる朝があってもいい。
正しい知識を持った上で、あなたの健康状態や生活スタイルに合わせて「自由に選ぶ」。それこそが、情報過多な現代における最も健康的な食との付き合い方ではないでしょうか。
バターもマーガリンも正しく理解すれば、必要以上に怖がる必要のない食品です。「何となく不安だから避ける」のではなく、「知ったうえで自分で選ぶ」。
明日の朝のトーストには、何を塗りますか?その選択は、きっとこれまでよりも少しだけ、自信と納得に満ちたものになっているはずです。
それが、健康情報に振り回されすぎない、大人の「食との付き合い方」なのかもしれません。

